今月の大協のひとこと【東急ドエルビレッジ】
ザシキワラシ
佐々木喜善の生まれ育った山口の旧家である山口孫左衛門の家では童女の神二人宿っていると言い伝えられていました。
ある年、同じ村のある男が町より帰る途中、橋のほとりで見慣れない二人のよい娘に逢いました。物思わしげな様子でやって来るので「お前たちはどこから来たのか?」と問えば「おら山口の孫左衛門のところから来た」と答えたのです。さらに「これからどこへ行くのか」と聞くと「そちらの村のなにがしの家に行く」と答えました。それはやや離れた村に今も健在の豪農。さては孫左衛門の家も終わりだなと思います。しばらくしてとんでもない事件が起こりました。孫左衛門の家の主従二十人あまりが茸の毒にあたって一日のうちに死に絶えたのです。七歳の女の子がひとり残されましたがそれもまた老いて子どもはなく、近き頃に病んで失せた、と語られています。
ザシキワラシが誰か村人に目撃されることはその家が没落に向かう兆候と信じられていたのです。つねの日には白い色を身につけているザシキワラシが、そうして村人に目撃されるときには赤い色の衣装をまとい、赤い道具を携えているというのも興味深いことです。「注釈」によると、ひとり残された女の子は長じて結婚し子どもはありませんでしたが、養子をもらって家系は保たれ孫左衛門の血筋は途切れても家筋は継続したと語られています。
(遠野物語百周年記念「遠野物語へようこそ」より)
Related posts